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主に編集後記とか、デンパな日記とか。
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見渡す限り本と竹間の山。文字嫌いなら卒倒しそうなその部屋の中央に、コタツに入って本を読んでいる一人の男がいた。
まだ若いながらも目には叡智の光を宿らせている。今日も家から出る気は無いのか、質素な着物で過ごしていた。
「ふうむ……これはなかなか……」
男は本を読みながら何かぶつぶつと呟いている。本を保護する為に薄暗くしてある部屋と積み上げられた書籍の山も相俟って、どこか尋常ではない雰囲気があった。
やがて一段落着いたらしく、本にしおりを挟むと大きく伸びをしてポツリと呟いた。
「いい仮病の参考になった」
男の名は司馬懿、字は仲達。別の世界では高笑いをしながらレーザーを乱射したり、虎豹騎を率いて竜の子の抹殺を企んでいるらしいが、ここではただの人間である。
いや、ただの人間ではない。この乱世で漢王室の血を組む劉備と並んで名声のある、『乱世の奸雄』曹操から再三誘いを受けていると言うのに、兄弟が頑張ってるから働かなくても生きていけると言う理由だけで仮病を使ってそれを断っている、非常に面倒くさがり屋の人間だった。
妻と二人の子供もいるので家系も安泰だと言う理由がその怠け癖を加速させ、今では立派な大人だと言うのに毎日家に引き篭もってテレビゲームに熱中する始末である。
そんな司馬懿が、目の片隅で何か動くものを見た気がした。また呂布か、と思い殺虫剤に手を伸ばすが、コタツの中からでは届かない。寝転がって手を伸ばそうと体を傾けた所、背中が本の山にぶつかってしまった。
元々危ういバランスの上に成り立っていた山である。司馬懿の一押しであっけなく崩れ、その頭に本の雪崩を降り注がせた。それだけでは済まず、周りの本の山まで崩し始めた。
「ぬおおぉぉぉぉぉ?!」
一つの山の崩壊は他山の崩壊を招き、それは全体に連鎖していく。名勝・司馬山脈の最期であった。

 

「あー……死ぬかと思った」
本の雪崩に巻き込まれた後、叫びを聞きつけた息子の昭に救出された司馬懿は、幾つかカビの生えている本を発見し本の虫干しをする事にした。
幸いにも今は冬の終わり、晴れの日は続いている。善は急げと言う事で早速崩れた本の山を並べ始めた。
ふと庭の木に目をやると、桜の蕾が膨らんでいた。最近外に出ていなかったので春が近づいている事に気づかなかったようだ。思えば、こたつは必要無い位暖かかった気もする。
更にその上に目をやると、桜の枝の一本に烏が止まっていた。司馬懿が気づくのを待っていたかのように、彼のほうを向いてカァ、と一声鳴いた。
「……風情が台無しだぞ、お前」
思わず、烏相手に文句を言ってしまう。向こうは言葉が分かっているのかいないのか、また司馬懿を見下すようにカァと鳴いた。
「あのなぁ、私を誰だと思ってるんだ?」
烏相手に司馬の八達の一人という評判を分からせようとする司馬懿。実に大人気ない。そんな司馬懿に烏は言った。
「アホー」
「てめぇこのヤロウッ!」
思わず手に持っていた竹間の一つを投げつける。当然烏には当たらない。それにますます腹が立って、虫干し中の本を次々と投げつけた。
下手な鉄砲も数打てば当たると言う事で、本の一つが烏のとまっていた枝に辺り、驚いた烏はカァカァ騒ぎながら逃げていった。
「ゼェゼェ……ざ、ざまあみろ、雑鳥風情が……」
久しぶりの激しい運動で息を切らしながらも、勝ち誇ったセリフは忘れない。
「仲達様、大丈夫でございますか?!」
声がしたので振り返ると、いつの間にそこにいたのか、馴染みの女中が壺を持って立っていた。
「ん、ああ。大した事は無い。烏を追い払っていただけだ」
「しかし息を切らしておりますが……」
「久しぶりに動いたからな。体がなまっていたらしい」
そのお陰か、何だか細かい事は気にならないぐらい爽やかな気分になっていた。
「で、その壺は?」
「あ……曹公から頂きました薬にございます」
「あ、そう。とりあえず倉にしまっておいて」
「か、かしこまりました……」
何故か驚いている女中はそう言ってお辞儀をすると、壺を持って倉のほうに歩いていった。
それを見送った司馬懿は、投げつけた本のことを思い出しそれを拾いにいった。結構多めに投げつけたようで、一度で全部持つのは難しかったのでとりあえず持てるだけもって縁側に置いた。
その時一冊の本が目に留まった。先ほど雪崩に巻き込まれた時に読んでいたあの本である。タイトルにはこう書いてあった。
『厄介事を受け流す50の方法 ~ただの仮病じゃもう古い~』
暫く固まった後、ゆっくりと女中が去った方向を見た。先ほど自分で見送ったので、もうそこにいるはずが無い。もう一度、本の表紙を見て固まった。

司馬懿、人生で初めての失策であった。






予告どおり、司馬懿のSSです。今回は『劉度シリーズの』司馬懿が曹操軍に仕官するまでの話を描いています。現実はこんなのじゃありませんよ。予想以上に長くなりそうなので前後編に分けてみました。
後編からはあのお方が暗躍しますが、あくまでも司馬懿のSSなので司馬懿視点で描きます。

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1989/07/03
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遂に大学生に。
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読書と言えば聞こえがいい
自己紹介:
紅茶よりもコーヒーのほうが好きです。というか、どうしても紅茶が飲めません。劉度シリーズでの大当たりに調子に乗ってブログを始めました。更に調子に乗って新作をはじめました。
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